30年後は公共のお金の使い道を選べる社会を!誰もが手軽に社会貢献できるサービス。
NPOを無料で簡単に支援できるWEBサービス「gooddo(グッドゥ)」を運営する下垣さん。建築家を目指していた大学時代から一転し、インターネット広告の会社に入り、ソーシャルメディア、NPOの可能性に魅せられるまでには、どんな背景があったのか。「こうなる運命だった」と語る下垣さんにお話を伺いました。
下垣 圭介
しもがき けいすけ|手軽に社会貢献できる選択肢を増やす事業の経営
社会貢献プラットフォーム「gooddo」を運営するgooddo株式会社の代表取締役を務める。
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一流の建築家の才能を目の当たりにする
私は北海道で生まれ育ちました。中学生の時、本屋で『男の隠れ家』という雑誌を見てから、建築家に憧れるようになりました。表紙にはガウディーが設計した「カサ・ミラ」の写真が使われ、中にも色々な建築家が特集されていて、純粋にかっこいいと思ったんです。
そして、高校生になって進路を考えた時、本格的に建築家になりたいと考えるようになりました。また、まだ見ぬものに触れたいと好奇心が強く、北海道を出たいと考えていて、センター試験を大失敗したりと紆余曲折の末、滋賀県にキャンパスがある立命館大学の建築系の学部に進むことにしました。
大学前半はそれなりに遊びつつ、3年生になると研究室にこもって設計する日々が始まりました。しかし、次第に自分は建築家の才能がないと感じるようになっていきました。物理が苦手で授業で分からないこともあったし(笑)、周りには自分よりはるかにセンスがある人もいたんです。
また、3年生の夏に有名建築家の先生の下で3週間ほど実務研修する機会があり、この時に一流建築家との差を思い知ったんです。
初日にアトリエに行くと誰かが机の下で寝ていて、徹夜で作業をしていたスタッフの人かと思ったら先生本人でした。アトリエは彼の自宅も兼ねているのに、わざわざ机の下に布団を敷いていることにまず驚きましたね。また、毎日昼には買い出しに行き、スタッフ合わせた20人分程の超豪勢な昼ごはんを作ってくれたり、音楽を聞ききたいと爆音でロックを流し、朝までウイスキーを飲みながら音楽について語り明かしたりと、一般人とは違う超独創的な世界観を持っていたんです。
その姿を目の当たりにした時、自分は建築家の器じゃないと感じてしまったんです。建築の資格を持って建築業に関わることはできるかもしれないけど、元々私が目指していた一流の建築家になるには、才能が程遠いと。そのため、建築家の道は諦めて企業に就職することに決めました。
インターネット広告の会社で5年営業として働く
改めて就職するなら何をしたいか考えた時、漠然とインターネットは面白そうだと思っていたし、建築学科から広告業界に進む人が多かったので、インターネット広告や建築系の会社を中心に見ていました。しかし、応募してもほぼ100%エントリーシートの段階で不採用になってしまったんです。そりゃ落ちるよねという内容だったんですけど(笑)
そんな時、セプテーニという会社がエントリーシート不要で応募できるというのを見て、調べてみるとインターネット広告の会社だったので、軽いノリで受けてみることにしました。すると、創業者の話は面白かったし、新規事業に積極的に取り組む風土もあり、元々新しい何かを生み出したいと考えていた自分には合っていると思いましたね。そして内定ももらうことができ、「この会社に行く運命なんだな」と、入社を決めたんです。
入社後は希望を出していた営業部署に配属となりました。インターネット広告をお客様に販売し、成果が出て喜んでもらえるのは嬉しかったし、仲間と一体感を持って仕事をしている感覚が心地良かったですね。
そして5年程営業として働き、マネージャーへの昇進も決まっていたのですが、一方で営業の次はどんなことをしようかと考えるようになっていきました。スマートフォンの領域で事業を作りたいと先輩に話すと、社長に直接相談してみるように言われたんです。
社会善が力を持つ時代の訪れを感じる
そこで、翌朝社長にメールを送ると、アイディアを提案する面談の時間をもらえ、次の経営陣の合宿で、私のアイディアも話してもらえることになりました。
結局、私のアイディアを事業化することにはなりませんでしたが、新しいことをやりたいなら新領域の事業の立ち上げをやらないかと提案を受け、ソーシャルメディア領域の広告を扱う部署を立ち上げることになりました。海外ではFacebookやTwitterが大流行していて、その波が日本にも来ることが予測されていたので、この領域に携われるのは純粋に面白そうだと感じましたね。
そして、そもそもソーシャルメディアとは何かと考えると、その可能性にワクワクしてきました。マスコミュニケーションの世界では、「誰」が言ったかが重要でしたが、ソーシャルメディアの世界では、それ以上に「何」を言ったかが重要になる。その世界観で、誰しもが良いと感じる「何」とは、一体どんなものか考えていくと、それは「社会的に良い」もの、いわゆるソーシャルグッドなものだと感じたんです。「美味しい」とか「かわいい」とかは人によって価値観が変わるけど、「社会にとって本質的に良いもの」は誰にとっても良いものですから。
そして、「社会に良いものと言ったらNPOだ!」と最初は安直に考え、学生時代にNPOでインターンしていた後輩にこの話をすると、有名なNPOの代表を紹介してもらい、その人の誘いでNPOや社会起業家の集まる会合にも呼んでもらうことになりました。
それまでNPOに関してはよく知らなかったため、その会合では会話についていけず1人で端の方いたのですが、場の熱量には圧倒されていました。まだ広く認知されてはいないけど、インターネットの黎明期に、その可能性を信じて集まった人たちも、きっとこんな光景だったんだろうと思ったんです。
「何かしたい」人が気軽に選べる選択肢を提供したい
それ以降、会社での仕事と並行してプロボノとしてNPOに関わるようになりました。すると、お金がなかったり、そもそも認知されていなかったりするNPOの課題が見えてくるようになりました。
また、日本人の90%を超える人が「社会の役に立つ何かをしたい」と考えているのに対し、実際に行動に移せている人は20%程度だというデータを見て、社会貢献に対する思いはあっても寄付や活動に参加するのはハードルが高く、何もできない人が多いことを知ったんです。せっかく思いがあるのに行動としてはゼロになってしまうのはもったいないと感じ、何かをしたいと思っている人が、より手軽に関われる選択肢を提供したいと考えるようになりました。
そのような思いを抱えながら、2年程会社の仕事とNPOのプロボノをする生活を送った後、事業のベースとなるアイデアを提案し、挑戦できることになったんです。
もちろん不安も感じていましたが、これまで何かを思いついても2年間思いを持ち続けたことはなかったので、これは本当に自分がやるべきことなんだと使命感はあったし、絶対にうまくいくという自信もありました。
選べる社会的投資を増やし、公共の概念を変えたい
そんな背景で2013年9月に生まれたのが、 手軽にNPOの支援ができるサービス「gooddo(グッドゥ)」です。WEBサイト上にNPOの活動が紹介されていて、「社会に何か貢献したい」と思っているユーザーは、支援したいNPOのページで「応援する」ボタンをクリックするだけで、無料でNPOに支援金を送ることができるサービスです。また、広告主のFacebookページを「いいね」したり、ECショップで買い物することでも、NPOに支援金を送ることができます。
ユーザーは、手軽に社会貢献に関わることができるし、個人の小さな支援でも、それが集まれば大きく社会を動かすことができる可能性がある。今では毎月数百万円程度の支援金をNPOに送ることができ、手応えを感じながら、今後は事業拡大に向けて邁進していきたいです。
今後も、より人々の生活導線の中でNPOを支援できる仕組みを広げていくことで、30年後には「公共」の概念を変えたいと考えています。例えば「税金」の在り方です。税金とは結局、社会の整備をするために人々が支払っているお金で、社会的投資と呼ばれるものです。
今は、個人が選挙によって政治家を選ぶことで税金の使い道を選択するような仕組みですが、個人がより多くの選択肢の中から「何に投資するか」を選べるようにしたいんです。自分で使い道を選ぶようになると、どんなところに使えるのか選択肢を調べるようになって、様々な問題に目が向きやすくなるとも思っています。国が集めている今の税金のかたちでなくとも、生活の中で使われたお金の一部が社会的投資に回って、その使い道を個人が選べる、そんな世界を目指しています。
今この事業に取り組んでいることを、ふと不思議に感じることもあります。1つでもピースが揃ってなかったら、全く別のことをしていたかもしれませんが、だからこそこれが運命なんだと、妙な確信を持ってもいるんです。建築家を諦めることになったのも、就職活動でエントリーシートでつまずいたのも、全て今の事業を作り、30年後の世界を変えていくためだったんだって。これからもこの運命に従い、目指す世界の実現に向けて歩んでいきます。
2015.04.17