しかし、大学院に進学してからも私にとって苦しい日々が続きました。
細胞を培養し、数十年後に医療に活用する研究に従事していたのですが、
研究自体はまさに亀の歩みで、細胞が死んでしまったら最初からやり直し。

勉強すればできると思っていたのが、やってもやっても思うような成果は出ないし、
研究を終わらせることで頭がいっぱいになっていき、
気づけば人としゃべることも一日数回程度、なんだか悲しくなってしまいました。
喪失感を感じる毎日に、将来は研究者にはならないぞ、と思いましたね。

元々、父が技術者で、人は裏切るけど、ものは裏切らないと教わって育ち、
例えば、「テレビが壊れたと言うと、テレビは壊れない、壊したんでしょ」というような調子だったんです。
そんな背景もあり、私自身技術者に関心を持っていたのですが、
自分は向いていないんだな、と気づいてしまったんですよね。

しかし、身を以て体験したからこそ、
「世の中にあるものは、色々な人の試行錯誤の上にあるんだな」
ということも同時に感じました。

さらには、これだけ大変な過程を経て生み出された技術も、使い方によっては、
だめになってしまうことへの疑問も感じるようになっていったんです。
ものを創りだす人の一生懸命な努力が報われるか否かは、マーケティングにかかっていると感じるようになったんですよね。

そこで、卒業後の選択肢を考えた結果、
私は、ものを創る人の思いを汲んで支えるようなマーケターになろうと考えるようになりました。
正直、自分に向いていないことをやり続けた期間が辛かったからこそ、
社会人になってからは、自分の本当にやりたいことをやろうという気持ちもありました。
そうでないと、後悔してしまうと感じたんです。

そこで、どのような商材に関わりたいだろうと考え、
お金がある人も無い人も同じ価値を提供できるようなものに関わりたいと思い、
どんな境遇にあっても使える、消費材メーカーのマーケティングに携わりたいと考えるようになりました。

そして、最終的には働いている人の雰囲気や会社の理念に引かれた飲料メーカーに入社を決めました。
それまで、様々なことを出来ない経験が続き苦しんだのですが、
ポジティブに生きることは、自分にもできると思えたんです。