努力が報われる農業界にしたい

こだわりを持った農家さんの野菜を、忙しくて栄養が不足しがちなビジネスマンに届けることでオフィスと農業界の革新を図っている川岸さん。どんなきっかけで農業について興味を持ち、この業界で起業したのか、お話を伺いました。

川岸亮造

かわぎし りょうぞう|野菜流通変革スタートアップ経営
農業活性・地域活性を目指す株式会社KOMPEITOで代表取締役を務める。
現在は野菜でヘルシーなオフィスライフを実現するOFFICE DE YASAIを展開中。

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二浪で感じた焦り


僕は、中高一貫の有名進学校に通っていました。その中で特徴的だったのは、文化祭。予算管理から企画、運営まで全て学生で実施するんですよ。ユニークな企画も多かったですし、何より仲間と一緒に最初から最後まで作り上げたので、出来上がった時の嬉しさは格別で、当時の仲間は30歳を越えた今でもよく集まったりしている仲です。

そんな高校生活を謳歌した結果、ロクに勉強していなかったこともあって、大学受験ではどこにも合格できずに浪人することになりました。

一浪目。世間的には超が付く進学校でしたが、中高時代を楽しみ過ぎる人が多く、友人の多くも浪人していたので、特に違和感なく浪人時代を過ごしていました。

それなりに勉強もして(したつもりになって)受験シーズンを迎えましたが、周りが次々と合格を決める中、結局この年も僕は一校も合格できずに二浪の道を選ぶことになります。

二浪目。二年となるとさすがに周りで同じような境遇の人は少なく、予備校で新しい友人をつくることもなく、一年間孤独を感じて過ごしていましたね。

中高時代の仲間からは楽しげな大学生活の話を聞くばかりで、置いてけぼりになった感覚もありました。また、情けない話ですが、当時は一体何のために浪人しているのかもわからなくなっていました。結局、三度目の受験も失敗して、なんとか合格した第五とか六志望くらいの大学に進学しました。

大学に入ってからも、先に進んでいる友人を見てただただ焦るばかりでした。就職活動時、「先を行っている彼らに追いつきたい」そんなことばかりを考えていた気がします。

ただ、あらためて自分がやりたいことを考えた時、中高時代に文化祭で盛り上がった仲間とその時と同じような感覚で、一緒にビジネスができたら面白いだろうなと思うようになりました。

そこで、自分が成長し、彼らに追いつき追い越すことでそういったことが出来るのだろうと考え、コンサルティングファームを中心に就職活動を行いました。

コンサルでの経験と起業の決意


そのまま僕は、日系のコンサルティングファームに就職しました。そこでは、主に製造業のクライアントを相手に研究開発部門のコンサルをしていました。

順調に仕事も任せてもらえるようになり、入社5年目には複数のプロジェクトを主体的に推進するような立場で、仕事をさせてもらっていました。

ただ、どこかで、「複数のプロジェクトを抱えるのではなく、一つのことに集中すればもっと世の中にインパクトを残すことができるんじゃないか」とも思うようになっていました。

当時の仕事で韓国に行った際に、街の雰囲気が明るいのを感じて、日本の当時の閉塞感をどうにか自分たちで、打破していきたいと思っていたのもあるかもしれません。(2011年当時)

そんな時です。社内の別のチームにいた同期から事業立ち上げの相談を受けました。

彼は第一次産業向けに新しい支援ができないかを検討するチームに属していて、曰く、コンサルティングというビジネスモデルでは、農家さんから仕事をもらえる可能性はかなり低いだろう、と。

であれば農家の方、特に様々なこだわりや努力をしている方たちが報われるようなサービス自体を、立ち上げた方が良いと言うわけです。

僕自身はそれまで農業界とはあまり接点はありませんでしたが、今後10年を考えた時に何かしらの変化が起きる産業だとは思っていましたし、当時それほど詳しく知ってはいなかったものの、農業界には多くの「不」が存在しているとは思っていました。

そして、そういった産業が変化していく中のいちプレーヤーとして、その事業だけに集中することで世の中にもインパクトを残せるのではと思うようになり、起業を決意しました。

農業の「不」


起業を決意し、農業に関して色々と調べていくと、多くの中間業者が介在することで、農家さんの手元に入るお金が少ない。買い叩きの構造にもなりやすい。様々な制度や規制でがんじがらめになっていてどれだけ農地を持っているかで、勝敗が決まってしまう。…etcと昔の農業では機能していたけれど、今の農業ではうまく機能していない多くの「不」が存在することが見えてきました。(例えば食糧が不足していた時や地元では多種の野菜を手に入れることが難しかったので中間業者があることで各地に様々な種類の野菜を届けることができていたわけです)

また、同じ地域で同じ物を作っていても作り手によって、味が異なるのではないかという仮説も持っていました。作り方の上手い人とそこそこレベルの人の物が一緒にされてしまうのでは、手間のかかる方法・工夫をする人は段々と少なくなってしまいます。

より美味しいものを作るために、日々努力・改善をしている人、そんな作り手がしっかりと報われるべきだと僕は思うんです。このあたりは「努力・工夫をして成果も出している技術者が正当に評価されるべきだ」と思って、仕事をしていた前職の影響もあるのかもしれません。

そして、そういった世界を実現するためにも、既存の流通方法とは異なる方法を生み出す必要があるのではないかと思ったんです。

農業界を変革する


起業をしてからは、個人向けの野菜通販やマルシェ営業など様々なことを試してきました。

野菜を流通させる時には、どうしても送料がネックになります。実は今進めている事業(OFFICE DE YASAI)は、そのネックを解消するため、会社に勤める方たちでの共同購入や会社の福利厚生としての野菜購入に道があるのではないかと営業していた時、以前からつながりのあった企業の社長を訪問したところ、「持ち帰りでなくて、オフィスにいながら美味しい野菜を食べたい」と言っていただいたのがキッカケで、生まれたんです。

また、僕らのサービスは本当の意味で農家さんと都心の企業をつなぐことにも寄与していると思います。つまり従業員の皆さんを健康にする・農家さんの新たな販路を構築するというだけでなく、農家さんにとっては「自分の作ったものが誰に食べてもらえているのがわかる」ということにもつながるんです。

これまでは、こだわりを持って作っても誰が食べているのかがわからなかった。でもこの事業を進めることでどういった企業の人が自分たちの野菜を、食べてくれるのかがわかるようになって、どんな物が求められているのかも実感できるようになると思うんです。そして、これはきっと今後の物づくりに活きてくるハズだと思っています。

僕らはそういった農家さんを応援して、まずはこの事業で努力・工夫する農家さんが報われるようにしたい。それだけでなく、将来的には他の分野でも農家さんを支援して共に成長出来ればと思っています。

例えばサービスを導入いただいている企業でテストマーケティングをすることで、次の生産物・商品づくりに活かせるような機会を提供することもそうでしょうし、ゆくゆくは農家さんの海外展開や、技術・ノウハウを持った人たちの新しい挑戦を、サポート出来るような仕組みづくりも考えていきたいですね。

そして、多くの「不」が生じている農業界を変えていきたい。

サービスを立ち上げたばかりでまだまだ始めの一歩を踏み出した段階に過ぎないですが、農家さんと一緒に汗をかきながら少しずつ成長していきたいと思っています。(実は今、自分たちで実際に自転車をこぎながらお客さまに野菜を届けたりもしているので、本当の汗もかきながら進めているんですよ。笑)

2014.03.26

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