歌を通じて、人と人とをつなげたい。
消費型ではなく、生産型の音楽と生活を。

うたうたいとして、国際交流や地域貢献のイベントでステージに立ったり、レッスンを通じて音楽の楽しさを伝えている山口さん。「音楽は人と人をつなぐためにやっている」と語る背景にはどのようなものがあったのか、お話を伺いました。

山口 愛

やまぐち あい|うたうたい
ソロ名義「山口愛」、オリジナルユニット「縫~Nui~」、ダブルボーカル「愛と光」、Brazil音楽「VIVA a COMIDA」、
舞台コラボレーション「衣舞音感~IBUONKAN~」など様々な活動を展開。
また、歌でつながるGOSPELコミュニティー「SOUL BRIGHTEN MASS CHOIR」の主催を務める。

うたうたい山口愛
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40分と40分


滋賀県の山の中で生まれました。家の周りは自然が豊かだったので、よく弟と一緒に山や川で遊んでいました。親の教育方針で、ゲームは買ってもらえなかったし、草花や身近にあるもので遊びをクリエイトするのが日常でした。魚と泳ぎ、蛍を愛で、野いちご狩りに出かけるのが楽しみ、という生活で、自然が全てを教えてくれる先生だったのです。

村には家が10件程しかなく、子どももほとんどいない場所だったので、小学校は車で40分程行った場所からさらに徒歩で40分もかかる町まで通っていました。

そんな場所から通っていたので、町の子どもたちのコミュニティに入れず仲間外れにされる事も多々ありました。人と接することはもともと嫌いではありませんでしたが、外の地域から来ている、という事が小学校の仲間たちに「自分たちと違う」と見られることにショックを受けたんです。そういった出来事を通して自分から人に声をかけるのが苦手になり、目が悪く運動も苦手だったことも後押しして、コンプレックスを感じる事が多くなりました。なので、いつも部屋の中で一人で本を読んだり絵を描いたりすることが多く、自分の産まれた意味や、存在意義をいつも考えているようなインドアな子どもでした。この経験が、「どうして皆仲良く出来ないのか?」という強い疑問に変わり、「人を繋ぎたい」という気持ちの原動力になっていきました。

そんな中、通っていた学童保育で地域の民謡を教えてもらえるようになりステージのソロに抜擢して頂きました。声を褒めてもらえたんです。他に自信をもてるものがなかった私には、非常に嬉しい出来事で、初めて人前で歌う楽しさや喜びを感じた瞬間でした。

音楽自体が魂そのもの


しかし、中学校に入ると民謡を歌う機会もなくなり、周りから外れるとまた仲間外にされるんじゃないか、という思いから、校則や規則からなるべく外れないよう、がちがちに規律を守り、目立つ事を極力避けるようになりました。自分の意見も言えないし、何を考えてるかわからない、とよく言われていて、自分を出す事を一切しなかったので本当に苦しかったです。

それがほどけたのは、高校に入って音楽に再会してからでした。友人たちとバンドをやろうという話になり、軽音楽部の入部テストを受けたんです。楽器ができなかったのでボーカル志望で、課題曲を歌ってみると、聞いてた人たちがみんな褒めてくれるんです。そこで小学校の時も歌が好きだったことを改めて思い出しました。

また、顧問の先生が音楽に対する情熱の塊のような人で、今まで聞いたことの無かったような音楽を沢山教えてくれました。その1つが、ジャニス・ジョプリンの『MOVE OVER』という曲で、歌というより魂の叫びに聞こえて、これが音楽なのか!と衝撃を受けました。

そこから毎日部室に通うようになり、朝から晩まで声を潰すほど練習しました。それまで目立つ事を極力避けてきたのですが、歌うからには人前に立たなければならず、初ステージは後ろを向いて歌いたい程、逃げ出したい気分でした。けれども、歌う事によって徐々に人前で心を開けるようになり、ステージで歌うとその後に声をかけてもらうことも増えました。そこで、自分から話しかけるのが苦手な私にとって「歌」は、嬉しい形で人に認めてもらえ、繋がる事のできるコミュニケーションツールである、という事に気付いたんです。

ただ、将来、音楽で食べていくことなど考えておらず、高校を出たらすぐ働こうと思っていました。働くことも好きだったし、人生とはそういうものだと思っていたんです。けれど親の勧めもあり、卒業後は大学に進学することになりました。





Let It Be


割り切っていたので、大学は音楽からも少し遠のいて、色んなサークルを覗いたりしている感じだったのですが、ある日、バイクで事故を起こして入院することになってしまいました。

そんな折、ライズハウスでバイトしていた先輩が、「この人やばいから聞いてみ」と1枚のアルバムをお見舞いに持ってきてくれました。それが綾戸智絵さんで、その歌に衝撃を受けた私は、すぐに病院を抜け出してライブへ行き、気付いたらそのまま彼女のバックコーラスに入っていました。

そこからは、全国で行われる彼女のライブステージに立たせてもらっては、音を体感する事に日々を費やしました。ステージの中で彼女は、歌とはなんなのか、歌詞の伝えるものとは、その意味とは、どのように表現するのか、どんな情景を伝えたいのか、メロディーや音の間をどう心で歌うのか、お客さんとのやり取り、エネルギーの交換の仕方、それらを全身で伝えてくれました。

没頭している間に、あっという間に大学生活は終わりを迎え、卒業を控えた私は、予定通り就職しようとしている自分への違和感と、内定式の時に感じた「本当にやりたい事はこれなのか?」という葛藤が拭えずにいました。

そんな時、東京のジャズフェスティバルで綾戸智絵さんの野外ライブがあり、「Let It Be」という曲をステージで歌ったんです。「あるがままに(受け入れなさい)人生流れるように身を任せなさい」という意味の歌詞を、自分自身の心の動きのまま、ありのままの気持ちを込めて歌っていたのですが、ふと目をあげると、お客さんが感動して泣いている姿が目に入ったんです。

この瞬間、音楽が人の心を動かす力を目の当たりにし、パーンと意識がシフトしました。自分がやりたいこと、自分にしかできないことをやろう!と。やってみて本当に駄目だったら、その時に考えよう、今これをやらなければ一生後悔すると思い、全ての内定を辞退し、東京に移りました。









音楽をやる意味


コネも何も無く東京に来てしまったので、最初はとても大変で、アルバイトで体を壊したこともあったし、プレッシャーに気が滅入ってしまい、曲が作れなくなったこともあるし、上手くいかなくて音楽そのものを辞めていた時期もありました。

けれど、ひょんなことから海外で演奏する機会を貰い、音楽をする意味を見つめなおすことができました。初の海外公演はカンボジアの孤児院や小学校での演奏でしたが、私たちの不安をよそに、言葉を越えてみんながとても楽しんでくれたんです。そして演奏の次の日、遺跡観光をしていると、1人の子どもが駆け寄ってきて「昨日の演奏を見たよ」と言い、「ついて来い」と言うんです。「え〜?」と思いながらついて行くと、そこは彼のボロボロの家で「よく来てくれた!」と家族総出でもてなしてくれたんです。思いがけない暖かい心の交流をすることができ、音楽の繋いでくれた交流に感動した出来事でした。

その後はNY、アジア諸国、南米、ヨーロッパと、海外で公演する機会も増え、音楽が、言葉や文化、肩書きや政治の派閥をも越えるコミュニケーションツールであるという実体験が次々と訪れました。また、海外に出るからこそ見える、自国の文化、先進国と後進国の経済の搾取のシステム、そこで自分がどうあるべきなのか、普段の生活で使うもの1つ取っても、その先にいる海外の人の顔が見えるようになり、生活のあり方を考えられるようにもなりました。音楽によって、様々なものと出会い視野も広げてもらうことができたんです。私が音楽をやる意味はこれなんだ、と。

音を通して自国の文化を伝え、それぞれの立場を、国を、そこに生きる人たちを知り、全てのボーダーを越えた心の繋がりをつくることなのだと感じています。だからこそ、ただ歌う、聞くだけの相互消費の音楽の場ではなく、私が歌うことによって何かが生まれたり繋がったりする科学反応の起こるイベントや場所を選ぶようにしています。

内面からハッピーに、それを循環すること


最近では、自分が歌うだけでは無く、音楽を通して外と繋がる楽しさをシェアできたらと歌のレッスンもやっています。歌うことに対してハードルが高いと感じている人も多いのですが、案外やってみたら「なんだ、できるじゃん」と思える部分も多く、思い込みを外すこと、その一歩目を後押しできればいいな、と思っています。

精神のセルフケアが自分でできちゃう部分も面白くて、歌って、歌うことで自分で内面からハッピーになれるんですよね。呼吸も深くなって落ち着くし。単純に大きい声出すのは気持ちいいんです(笑)

自分がいい状態だと、周りも楽しいし、いい関係ができて、いい循環が起こる。今は、それぞれが特技を生かして嬉しい、楽しいという循環で回るようなコミュニティが出来たら面白いなー、と思ってます。私に歌があるように、農業が得意な人、商売が得意な人など、住む人がそれぞれ自得意なことをすることで循環するコミュニティビレッジが作れたら、今起こっている色んな問題ってかなり解決すると思うんですよ。仕事は分担できるし、お金もかからず回せるし、何より楽しい事に集中できて、みんな心豊かに安心して暮らせるんじゃないかと思うんです。

みんな、先が不安だと言うけれど、将来というのはその時々の一瞬の積み重ねの先にあるものなので、日々いい時間を過ごせるよう、自分の中からクリエイションして、その時のワクワクする方に素直に従っていくと楽しいものにしかならないんじゃないか、と思います。感覚的なものですけど。

あと、目標に向かって行くことは大切ですが、進んでいく過程を楽しむことも非常に大事で、学びや得るものが大きいな、と思っています。到達することだけが全てでは無い。寄り道も大事。私にとって歌はそんな感じです。日々見えてくるものは違うので、常に感性を磨いてアンテナ立てておきたいですね。




2014.11.05

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