起業のための学生活動で自分の可能性を発見。 瀬谷区をもっと魅力的なまちに。

大学在学中から横浜市瀬谷区で活動をはじめ、スマホ教室や養蜂によるまちづくりに取り組む山口さん。元々、地域での活動に興味があったわけではないと言います。瀬谷区で活動を続ける理由とは?お話を伺いました。

山口 正斗

やまぐち まさと|NPO法人MIKs代表理事/瀬谷ハチミツリビングラボ
1998年生まれ。専修大学経営学部在学中にMIKsを立ち上げ、横浜市瀬谷区で高齢者向けのスマホ教室を開催する。2021年7月、瀬谷ハチミツリビングラボ代表に就任。2027年に開催される国際園芸博覧会を目標に、瀬谷区で養蜂を通したまちづくりを進めている。2021年10月に、MIKsをNPO法人化。

祖父のような経営者になりたい


神奈川県横浜市瀬谷区に生まれました。瀬谷区は横浜市の端に位置し、畑が多く、自然豊かな場所です。お祭りなども盛んで、地域住民とのコミュニティができている地域でした。僕も、お祭りで太鼓をたたいたり、運動会に出場したりなど、町内会の行事によく参加していました。

おじいちゃんおばあちゃんが多かったので、ちやほやされていましたね。「正斗がきたぞ!」と名前も覚えてくれていました。友達と遊ぶのも楽しいけれども、たまに地域のおじいちゃんおばあちゃんたちと関わるのが大好きでした。日常でも、道で会ったらあいさつをするような関係性でした。

地域ではいろんな人と仲良くしていましたが、頑固な一面もありましたね。小学1年生で水泳をはじめたのですが、4年生になってサッカーがどうしてもやりたくなって。親は水泳を続けるよう勧めましたが、僕は断固として送迎バスに乗りませんでした。結局、サッカーをやりたいと言い続ける僕に親が折れてくれました。

子どもの頃から、憧れは祖父でした。祖父は運搬業の社長で、母も社員として働いていました。起業して自分の娘を雇えるくらいに成功している祖父がかっこいいと感じていたんです。

大学生になり、将来についてしっかりと考えるようになったときも、その思いは変わりませんでした。就職した後でもいいから、いつかは自分の会社を持ちたい。社長としてがんばっている祖父の姿をずっと見てきたからです。

祖父はよく、武勇伝を語ってくれました。20歳くらいのときに戦争が終わり、仕事を探して、1人で池袋に。気づいたら涙が出ているくらい、苦しくても仕事をし続けたという話を何度も聞かされました。時代が違うとも思いつつも、僕と同い年の頃にそれだけ苦労して、今は会社を経営しているのが、すごくかっこいい。祖父のようになるためにも、大学時代から何か活動をしておきたいと考えていました。

まずは小さな活動から始めてみよう


とはいえ、何をすればいいか思いつきません。そんなとき健康体操やヨガ教室など、地域住民向けに教室を開いているイベントのチラシが目に入りました。はじめて挑戦するならば、地域に根ざした簡単な教室でもいいかもしれない。そう思いました。

しかし、自分では体操もヨガもできません。共感してくれた高校の同級生と一緒に、何ができるかを考えたところ、スマホを教えることならばできるとお互い納得して、地域のお年寄りに対して、スマホ教室を開くことにしました。

参加料は500円頂くことにしました。教えるのはSNSの操作程度。若い世代ならば誰でもできることです。この程度のことで、本当にお金をもらっていいのか、どこか罪悪感のようなものを感じました。

しかし、いざ開催してみると思った以上の反応がありました。あるおばあちゃんが、500円を渡しながら「次はいつやるの?」と微笑んでくれたんです。自分が考えたことで誰かに喜んでもらえて、しかもお金を払ってまで、また来たいと言ってくれた。そのことが本当に嬉しかったです。小さなことだけれど、自分は誰かに影響を与えられる存在なのだと感じました。

その後、活動の幅を広げるために、区役所など地域の施設を多く訪れました。そこで、昔と変わって地域コミュニティが薄れていること、高齢者が増えていること、農家の後継者不足が問題となっていることなど、さまざまな課題を知りました。小学生時代に親しんでいたコミュニティが薄れつつあることに、危機感を覚えました。

同時に、地元がどんどん好きになっていきました。以前から感じていた自然の豊かさはもちろん、人の良さを実感したからです。活動をする中で、地元で活動している素敵な人たちとのつながりもできました。その人たちと話す中で、ますます地域に貢献したいと思う気持ちが強くなりました。

また活動をする中で、自分自身にも大きな変化が現れました。雲の上の存在だと思っていた政治家の人たちと話す機会を得られたりなど、活動する前は想像もできなかった自分になっていたのです。今は小さなことしかできていないけれども、自分は地域を変えていけるような人間になれるのではないか。そんな自信がどんどんついていきました。

コロナ禍でも、諦めたくない


しかしその冬、新型コロナウイルス感染症の拡大で、スマホ教室は開催できなくなりました。一緒に活動をはじめた同級生も、「就活があるからやめる」と、離れてしまって。もう活動はできないかもしれないと思いました。

僕自身も就活をして、いくつか内定をもらいました。でも、やっぱり諦めきれなかったんです。秋頃になると、徐々に当初の混乱もなくなりました。もう一度挑戦したいと、高校の後輩を誘って活動を再開。自分たちで地域の活動を進めていく面白さを再確認しました。

そこで覚悟を決めて、内定を辞退しました。就職して片手間でやるよりも、本気で取り組みたかったからです。しかし、家族からは猛反対。とりあえずは「就職浪人することにした」とその場しのぎの言い訳で濁しました。

そのまま大学卒業後は、アルバイトで生活資金を貯めながら、スマホ教室の活動を進めました。近くに事務所を借りたりなど、徐々に活動の幅を広げました。地元のフリーペーパーにも活動が掲載され、多くの反響をいただきました。

さらに、2027年に瀬谷区で開催予定の国際園芸花博覧会にあわせて、自然豊かな土地をもっとアピールしたいという相談がありました。一千万人もの来場者を予定しているビッグイベントで、絶好のタイミングです。

そこで目をつけたのがハチミツでした。豊かな花を活用してハチを育ててみたらどうかと考えたんです。そうすれば、国際園芸花博覧会のお土産としても活用できます。オープンイノベーションの団体に参画し、ハチミツづくりに向けた活動を開始しました。

スマホ教室は、様々な地域から呼ばれることが増えて、どんどん広がりを見せていきました。10月には活動をさらに大きくするため、NPO法人化しました。

いよいよ就活浪人という言い訳も通用しなくなり、いつもの食卓で家族に自分の思いを伝えました。これまでの活動から、言葉にしなくても僕が本気なことは伝わっていたみたいで。「自由にやったらいい」と背中を押してくれました。僕自身もこれまで以上に腹を決めて、活動に取り組むようになりました。

瀬谷区をもっと愛される地域に


現在はNPO法人MIKsの代表理事と、瀬谷ハチミツリビングラボの代表を務めています。

NPO法人MIKsでは、地域住民のデジタル格差の解消を目標に、高齢者に対するスマホ教室を開催しています。これまで参加した高齢者は、のべ150名以上。教える内容は、SNSの使い方など、基本的なことばかりです。

スマホの普及により、ますますデジタル格差が深刻になっていると感じます。たとえばコロナワクチンの接種において、ネット予約ができず、長時間に渡って電話をかけ続けた話を何度も聞きました。その方々は、スマホを持っていてネット予約ができる環境にあるにもかかわらずです。さまざまな社会資本がデジタル化する中で、対応できていない高齢者が取り残されてしまうことに危機感を覚えています。

ただ実際には、高齢者自身が必要以上に高いハードルを感じているだけで、触ってみたらできるケースも多くあります。スマホ教室でも、ちょっと教えるだけで使えるようになる高齢者の方々をよく目にします。高齢者の方々がスマホを活用できるようになることで、若い世代とコミュニケーションを取る機会になったり、便利に暮らせることにつながればと思います。

瀬谷ハチミツリビングラボでは、2027年の国際園芸花博覧会で瀬谷区産のハチミツをお土産として売り出すのを目標に、花を植えたりなど、養蜂の準備をしています。今年5月には、はじめての養蜂のために、クラウドファンディングを実施する予定です。

この活動には、大きな可能性を感じています。ハチミツを使ったお菓子などを商品化できれば、大きな観光資源になります。また人口流出の主な原因として仕事不足がありますが、それもこの事業を通じて解決できるかもしれません。瓶詰め作業などは、障害者の就労支援の選択肢にもなります。何より、この活動を通じて、地域住民の方々がもっと瀬谷区を大好きになってもらえると思うのです。

目標は、世界で認められるようなハチミツブランドをつくること。今はヨーロッパでもハチミツが人気です。「瀬谷区産」のハチミツがブランドとして、海外の食卓に並ぶくらいになれば嬉しいですね。ハチミツを使った地域創生の一例となればと思います。

これからについて、何をしているのかはあまり想像できません。目の前のことをただただがんばるしか道はないと思っています。しいて言えば、僕のように地域で何かやってみたいと思う人が出たときに、そのサポートができるような人材でありたいです。

僕は地域貢献をしたかったわけでも、大きなビジョンがあったわけでもありません。しかし小さなことを積み重ねていくことで、徐々につながりが大きくなり、できることが増えていきました。何かやってみたいけれども一歩踏み出せずにいる人にも可能性は必ずあります。そのサポートをして、もっと地域で活躍する人たちを増やしていきたいです。

2022.04.28

インタビュー・ライティング | 林 春花
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