花の価値をより多くの人に、より深く伝えたい。「取り柄なしくん」だった自分が見つけた夢。

お花の事業を行なっている木下さん。幼い頃は内向的な性格で、勉強も運動も常に下から数えた方が早かったことから「取り柄なしくん」とからかわれていたそう。そんな状況を乗り越え、自分のやりたいことに取り組むようになった背景には何があったのか、お話を伺いました。

木下 雄登

きのした ゆうと|株式会社Mawi代表取締役
イギリスへの短期留学中、花の持つ素晴らしさを実感。その後決済会社への就職を経て、花事業を展開する株式会社Mawiを立上げる。

「取り柄なしくん」と呼ばれて


愛知県名古屋市で生まれました。幼稚園の頃はまわりに馴染めなくて、友達もなかなかできませんでした。行きたくないと母にダダをこね、幼稚園を何回も変えてもらいました。

小学校でも友達ができなくて、社交的なタイプの友人に嫉妬心を抱いていました。成績も下から数えた方が早いくらいで、コンプレックスの塊でしたね。

中学校ではなんとなく野球のクラブチームに入りました。運動神経が悪く、毎日300回以上素振りをしていたのですが、それでも打てるようにはなりません。そんな状況を見た中学の同級生から「取り柄なしくん」というあだ名をつけられました。悔しいというよりは「自分は確かに何事にもセンスがないし、こんなもんだよな」くらいに思っていました。

中学最後の試合で、あだ名をつけた相手がいるチームと対戦しました。大きく点差をつけられ、コールド負け寸前の回で自分に打席が回ってきました。これが最後の打席だと思うと、毎日300回素振りをしたことが走馬灯のように蘇ってきました。我ながら、よく頑張ったなと思いましたね。

すると、不思議と気持ちが落ち着き、集中して打席に臨むことができました。ピッチャーが球を投げた瞬間、ただ無心でバットをフルスイングしました。すると、相手の球をジャストミート。打った球はぐんぐん伸び、スタンドに飛び込んでいきました。人生最後の打席で、人生初のホームランを打つことができました。

試合には負けましたが、ちゃんと努力していれば必ず良い変化があるんだなと実感しました。「自分の人生、こんなもんだよな」と終らせるのはもったいないと考えるようになりましたね。

結果を出して調子に乗るように


高校では、とにかく高みを目指して何かに打ち込みたいと思い、全国大会への出場実績もあり、学校の中でも一目置かれていたバドミントン部に入りました。

夕方まで学校で練習した後、夜間は学校の近くの大学でも練習していました。やればやるだけ上手になっていくのがわかり、楽しかったです。夢中で取り組んだ結果、その姿勢と実力が評価され、キャプテンに選ばれエースになることができました。

高校2年生の時、受験勉強を始めるにあたって、将来自分のなりたいものを真剣に考えました。母が靴のデザイナーをやっていた影響で興味があったファッションの勉強をするため専門学校に行こうと考えました。

尊敬していた塾の先生からは、もし上を目指すなら、日本だけでなく、海外の学校も視野に入れるべきだとアドバイスをもらいました。調べてみると、海外ではファッションを美術と捉え、美大で学ぶことが多かったんですね。その中でイギリスにある、ファッションにおける世界三大学校のうちの一校に惹かれ、受験を決意しました。

同級生とは全く違う進路を選ぶこととなりましたが、不安はありませんでした。むしろ、何も考えず、とりあえず偏差値の高い大学に行く人たちのことを見下してました。部活で結果を出していたことや、昔バカにされていたことの反動で、見返してやったという気持ちに酔ってしまい、悪い方向に調子に乗ってましたね。

贈ってみて気づいた花の魅力


イギリスの美大への入学を目指して、高校3年生の夏、1カ月間イギリスに語学留学をしました。通っていた語学学校の中にカフェがあり、そこでめちゃくちゃ可愛いイギリス人の女の子が働いていたんです。その子は人気者で、周りから「エンジェル」と呼ばれるアイドル的な存在でした。

その子を一発で好きになってしまい、なんとか振り向いてもらいたくて、何度も話かけました。ただ、英語がまだあまり話せなかったので、想いがなかなか伝わらず、もどかしい状態が続きました。いろいろ考える中、ふと駅で花を売っているのを見つけ、贈ってみようとひらめいたんです。

女性に花を贈るなんて初めての経験で、周りから茶化されたらどうしようと思いましたが、当たって砕けろの精神で、バイト終わりの彼女に、花を贈りました。

すると、贈った自分も驚くくらい、彼女はすごく喜んでくれました。想像していたよりずっとオーバーなリアクションで。その光景はまるで映画のワンシーンを見ているようでした。そしてそのままバイト終わりに、デートに連れ出すことに成功したのです。周りにいた人たちも拍手して祝福してくれました。

そのとき、花は劇的に人を幸せにできると実感しました。花を贈ることは単にプレゼントを贈ることではなく、相手に思いを馳せ、贈り、喜んでもらう。そんな素敵な体験なのだと感動しました。

モチベーションの違いを感じ、挫折


帰国後、入学に必要な英語の資格試験をクリアし、念願だったイギリスの学校へ入学できました。周りの大人や友人たちから、知名度の高い海外の大学に入ったことでチヤホヤされることが多く、昔認められなかった反動から、喜びを感じてしまっていました。

ところが、入学してすぐ授業や制作の際の、周りの人との意識の違いを感じるようになりました。授業では、最初に教授のレクチャーを数時間受け、あとはひたすら自分でリサーチしながら与えられたテーマに沿った作品を作り続けます。自由度が高く、自発的に取り組まなければなりません。

同級生が皆、自分の表現したいことを形にすべく、情熱を持って課題に取り組んでいるのを尻目に、自分は作品作りに前向きになれないでいました。周囲に認められるために美術の名門校に入ることがゴールになっていて、その先の自分が何を表現したいのかまでは深く考えられていなかったのです。それでも日々課せられる多くの課題に取り組みましたが、次第に作品作りが苦しく感じるようになりました。入学してから約1年が経過した時、どうにもしんどくなってしまって逃げるように退学し、帰国しました。

帰国後は、精神的につらかったですね。たった1年で大学を中退した自分は、これまで見下してきた人たちよりも下じゃないかと思いました。他者を見下してきた分、自分にそれがそのまま返ってきた感覚でした。

高校生からずっと自分のやりたいことに向かって取り組んできた中、久しぶりにやりたいことがない状態になりました。自分はどうすればいいのだろうと途方にくれ、何かないかと焦って考える日々でした。しかし、そんな簡単に見つかるものでもなく、何をすればいいのかわからない状態で、バーで働いたり半年ほどブラブラしていました。

このままではマズイと思い、とりあえずそれなりにできる英語を活かそうと、半ば消極的に英語の先生を目指して外語大学に入学しました。


「本当にやりたい事」とはなにか


入学当初は、何か打ち込めるものが欲しいと多くの授業に出席するのですが、情熱を注げるものには出会えませんでした。

そんな中、知り合いの経営者が行なっていたアート系の事業を立ち上げを手伝うことになりました。このとき、たまたま何人かのフラワーアーティストと仕事をする機会があり、「贈る」という側面以外の「花の美しさ」そのものに触れました。花の美しさと価値をより強く感じるようになりましたね。

大学に通うかたわら、多くの時間を事業の手伝いに割くことにしました。仕事自体は難度が高くとても楽しかったです。

一方で、様々な社長やビジネスマンたちと関わる中で、いい格好して、いい車に乗ったりすることがステータスだと思うようになりました。美大に進んだ時に感じていた承認欲求を、もう一度満たすため、いつの間にか資本主義的なわかりやすい指標を追い求めるようになっていたのです。

そんな生き方をすると恋人もお金やステータスに執着するような人と付き合うようになり、自分自身も値踏みされ「これで幸せなのか」と思うようになりました。特に衝撃だったのは恋人が、金持ちと浮気しているのを知った時でした。その浮気相手は生まれからそもそもとても裕福で、その時、お金や地位だけをひたすら追ってもキリがないし、元から多くを持っている人に人生をかけて追いつこうとしても虚しいだけだなと思いました。

また、このまま年収などの数字を追いかけていてると、自分そのものではなく「数字」に自分が成り代わられるような気がしてゾッとしました。それで、見た目とか服とか持っているモノとか、そういった即物的なモノのステータスだけを追いかけるのはやめることにし、自分が本当にやりたいことを考えるようになりました。

「花」というやりたいことを見出す


自分自身と向き合うため、一度ネットなどデジタルな情報を遮断しようと考え、田舎の祖母の家に2週間ほど引きこもり、ひたすら様々な本を読み漁りました。

自分のやりたいことがなんなのか模索する中、語学留学中に花を贈って喜ばれた体験を思い出しました。留学後もよく花を贈るようになっていて、贈るうちにどんどん花が好きになり、自分の家でも飾ったりするようになっていました。いつの間にか花が側にあり、花が好きになっていることに気づきました。

それからは花屋にアルバイトに行ったり、就活の一環として花を扱う企業に話を聞きに行ったりしましたが、自分自身が何か特定の作品を作りたいわけではないと気がつきました。興味があったのは、価値があると思っている「花」の良さをもっと多くの人に伝えることでした。

また、現場の状況について知れば知るほど、業界の負の面が見えてきました。市場規模が大きいにもかかわらず、アナログな側面やビジネス的な取り組みが弱い部分があり、良い作品をつくるアーティストや花屋さんが活かされてきっていないと感じる部分が多々ありました。

さらに、良いお花を提供する人たちが生活的に豊かではないケースにも出会いました。良いお花がきちんと提供され、それをつくる人たちがより豊かになって、さらに良いお花が提供されていく、そんな状態をつくりたいと思うようになりました。

就活は順調で、花関係の会社に内定をもらいましたが、このまま今の自分が飛び込んでも、業界を変えることは時間がかかると感じていました。そんな中で、たまたま出会った決済系のサービスを展開しているベンチャー企業に惹かれました。

ただ儲けるためのビジネスではなく、全ての人が幸せになるオールウィンな事業づくりをしている会社で、一定の規模感もあり、ここでなら自分が花でやりたいことを実現するための力をつけられるのではと感じました。そこで、まずはそのベンチャー企業に就職することにしました。

入社後は、セールスやマーケティング、新規事業のプロモーションなど多様な業務に携わらせてもらいました。その仕事も楽しく、やりがいを持って働いていましたが、花にまつわる事業をやる気持ちは変わっていませんでした。

入社して3年が過ぎたころ、勉強のために参加した、自分でアプリケーションを考えて開発するイベントで花に関するアプリをつくりました。それまで目の前の仕事に集中するために、あえて花について考えないようにしていましたが、それをきっかけに改めて本気で花の事業について考えるようになりました。

その結果、いてもたってもいられなくなり、花のサービスを展開する会社Mawiを立ち上げました。

花の価値をより多くの人に伝えたい


現在は、株式会社Mawiの代表取締役を務めています。メインで取り組んでいるのは、移転祝いや上場祝いなど法人向けの贈答花事業です。企業間で贈るお祝花は形骸化しつつあり、見た目がどれも似通っていて贈り手のお祝いの気持ちがうまく伝わっていない現状があることがサービスを始めたきっかけでした。

法人向け贈答花に着手した当初は業界の方や先輩経営者に「法人向けのお花なんてどうでもいいから必要とされない」「着眼点が悪い」といったことを言われました。しかし、50社100人の方にユーザーインタビューをしたところ、ほぼ全ての人が現状に違和感を持っていました。選択肢がなかったり、よくわからないから変えることができていない状態だったんです。

現在は、贈り先の会社のURLを入力するだけで、ミッション・事業・コーポレートカラー・デザインに合わせて、世界で一つだけのお花をつくるサービスを展開しています。


また、贈られた側の処理の負担にも課題を感じていました。法人向けのお花はサイズも大きいため、処理に手間がかかったり、お金がかかります。数が多いと処理に数十万円かかるなんてこともあります。お祝いなのに贈られた側に負担がかかる状態は単純におかしいと思いますし、贈り手もそれは望んでいないと思います。Mawiでは花の処理のしやすさにもこだわっていて、贈られた側が処理するのにコストも手間もかからないようにしています。

今はサービスを提供し始めて実際にとても喜んでいただくことができ、徐々にではありますが現状を変えていくことができていると感じます。

Mawiのミッションは花の価値をより多くの人により濃く深く伝えることです。花には生命ゆえの強い美しさがあると感じています。一瞬の生命だからこそ、その瞬間の唯一性を高めてくれるんです。

また、様々な品種や色があり、組み合わせ次第で世界で一つのプレゼントをつくることができることから、相手に想いを馳せた贈り物を実現することができます。花には機能的な価値があるわけではありません。だからこそ、自分の気持ちをピュアに伝えることができるという体験的な価値があると思っています。

花が持つ、それらの価値や美しさはまだまだ伝わりきっていないと感じます。今後は花の価値を伝えるため、様々なサービスをつくっていきたいと思っています。そして、サービスを通じて花の生産者やフラワーアーティストがもっと注目してもらえる状態をつくり、花業界の見られ方も変えていきたいです。花の価値を社会に広め、少しでも多くの人が「お花っていいね」っていってくれる社会をつくりたいと思っています。

社名のMawiはイギリスで一目惚れした女の子の名前です。あの時に感じた花の美しさと価値を社会に広めていきたいという想いでこの社名にしました。

今後も挑戦を続け、70歳くらいまではお花にまつわる事業をつくり続けていきたいですね。

2019.09.30

インタビュー | 種石 光
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