ファッションを通してお客さまを笑顔に。いいものを循環させ、持続可能で幸せな社会を作る。

ドレスシェアリングサービス「CARITE」を運営する神谷さん。企業の中で立ち上がった、新しい事業に志を持って取り組んでいます。その背景にある思いとは。お話を伺いました。

神谷 友貴

かみたに ゆき|「CARITE」プランニングスタッフ
新卒で株式会社三越伊勢丹に入社。その後、売り場での販売や店舗設計、アシスタントバイヤーなどを経てMD戦略部に配属。現在はドレスシェアリングービス「CARITE」の責任者を任されている。持続可能な社会の実現に向け、良いモノが循環する仕組みの構築に挑んでいる。

人生最大のショックで引っ込み思案に


東京都内で生まれましたが、両親がペンションの経営をはじめた関係で長野県に引っ越しました。

幼い頃、母親がフリフリの可愛らしい服を着せようとしてくるのが嫌で、自分の好きな服を伝えられるようにと、ファッションに詳しくなっていきました。詳しくなるとどんどん好きになり、テレビ番組でファッションやメイクで一般の女性をすごく綺麗に変身させる番組をよく見るようになりました。

両親の運営するペンションにも出入りし、入れ替わり立ち替わり来るお客さまにたくさん可愛がられて育ちました。欲しいものが手に入り、なんでも自分の思い通りになる感覚になりました。

保育園に通い始めたとき、三者面談で先生が私のことを「わがまま」だと言っているのを聞きました。先生は私にではなく、親に対して「こんな側面がありますね」くらいの軽い気持ちで言ったのだと思います。ただ、私はそれを隣で聞いてかなりショックを受けました。私ってわがままなんだ、と。

そこから人の目を気にするようになりました。人前に出ることは極力避け、自分から手を挙げたりしなくなりました。一気に引っ込み思案になりましたね。

そんな性格を治すためにと、両親から劇団に入れられました。レッスンで大きな声を出したり人前で発表したりするうちに、少しずつ人前に出ることにも慣れていきました。劇団は勉強のために中学でやめました。

劇団をやめてからは、バトミントン部に所属しました。高校まで続け、キャプテンを任してもらっていました。上手くはないけど、同じような人の気持ちがわかるからこそ、上手な人も下手な人もみんなで頑張れる部活にしてと顧問の先生に言われました。上手さよりも熱意が評価されての抜擢だったのだと思います。チームをまとめなくてはという責任感から人前で話すことを実践していくうちに、次第に慣れていきました。


また、高校の文化祭でヒロインを演じたことでも引っ込み思案な性格が変わりました。友人が背中を押してくれたこともあり、勇気を出してやってみると、全員で一つの劇を完成させる一体感や完成した劇で誰かが楽しんでくれることがすごく嬉しかったんです。

そんな環境の中で、次第に自分を前に出していくことや意見を知ってもらうことの恐怖感が薄れていき、引っ込み思案が治っていきました。

やりたいことの根底にある気持ち


大学進学を考えたとき、将来は地球環境に携わる仕事がしたいと思いつきました。緑豊かな場所で育ったこともあって自然が好きだったんですよね。ちょうど地球温暖化などの環境問題が着目されていて、気になっていたのもありました。「ああやばい、このままだと地球が無くなっちゃうから、解決していかないと」と勝手に思っていました。

同時に、ファッションの勉強もしたいと思いましたが、専門学校に行く選択肢は考えませんでした。両親の期待に答えるためには4年制で偏差値の高い大学に行くのが良いのだと思っていたんです。なんとなく、親にがっかりされるのは嫌だと思っていましたね。

ファッションの道は諦め、もう一つのやりたいことだった環境問題解決に取り組もうと、社会問題や環境問題も含めて学べる学部へ行くことにしました。

大学ではスキーサークルに入りました。長野で過ごしていた頃、父はペンションと同時にスキーのインストラクターをやっていたので、子どもの頃からスキーをしていたんです。サークルでの活動中も環境問題は気になっていました。今年は雪が少ない、地球温暖化の影響なのかもしれないとか考えてましたね。

ゼミでも地球環境問題を学びました。一生懸命勉強し、卒論で優秀賞をいただきました。

これまでずっと環境問題に関心があり、解決のための取り組みがしたいと考えてきましたが、就活の時期になり、改めて自分が実現したいことってなんだろう?と考えました。昔から自分が好きだったファッションにも、できれば関わりたいと思っていました。

何がしたいか考えた結果、「環境問題の解決」や「ファッションに関わる」は手段に過ぎず、その根底には誰もが平和でいれるようにしたいとか、周りの人にハッピーになってほしいという思いがあることに気がつきました。そして、自分が直接人と関わり、相手を笑顔に、ハッピーにしたいと思いました。

そんな軸を元に、幅広くいろんな会社を受け、ありがたいことに、いくつか内定をもらうことができました。内定をもらった会社の中で、最終的には百貨店に入社することにしました。生活に関わる全てのものを扱っているので誰かを笑顔にするためにあらゆる方面からアプローチできると思ったのです。

また、百貨店なら上から下まで一通り身につけるものを提供できるので、ファッションの面からでも人を幸せにできるなと思いました。自分が好きだからかもしれないですが、特に女性はファッションを変えるだけで違う自分になれたり、お気に入りの服を身に着けるだけで、元気になったりすると思っていたので。

成し遂げるまで諦めない


はじめの2年間は販売を経験するため、レディースジーンズの売り場に配属されました。直属の上司の教育方針で、リーダーになったときのために売り場のコントロールも任されました。在庫管理や売り上げ達成のための戦略立案、クライアントとの関係性構築のノウハウなど、幅広く学ばせてもらいました。

上司は、考え方と熱意が大事だとことあるごとに言っていて、私も直接「お前は熱意は人一倍あってあとは考え方だけだから、俺から学べ」と言われていました。その言葉を信じ、上司の求めることを必死にこなしていきました。

その頃、ある支店の再開発があり、売り場の設計を任されることになりました。売り場面積が小さくなる中、売り上げは維持できるようにしなくてはならない、という難しいテーマを与えられました。

お客さまはこの導線でくるから、こういう配置にしたら買ってくれるんじゃないかなど、お客さまの気持ちを必死に考えました。何度提案しても突き返される毎日で、泣きながら図面を書いてました。

考えて考えて、ただ効率よく買い物するための導線でなく、お客さまがワクワクする空間にするにはどうすればいいのかまで踏み込んで設計しました。その提案を上司に持っていくと、やっとプランを認めてくれて「そこまで気づけるなんて本当によくやった」と言ってくれました。ものすごく嬉しかったですね。

本当にお客さまのためになっているの?


それからは、上司から「勉強になるから」と社外の集まりなどに誘われるようになりました。私の最後まで諦めずに取り組む姿勢を評価してくれたのかなと思います。

3年目からは、バイヤーのアシスタントにつき、編集ショップという百貨店の中でも花形の売り場を任されました。編集ショップは、ブランド主導で運営してもらうのではなく、自分たちで買い付けてきたものを販売する売り場です。担当として、服や小物などを実際に買い付けに行ったりしました。

最初はお客さまに、自分が仕入れた商品を提供して喜んでもらうことがバイヤーの果たすべき役割だと思っていましたが、仕入れ先の都合や百貨店としての都合もある中でだんだんと自分の仕事はお客さまのためになっているのかわからなくなってきました。

そこで、会社の経営や戦略に興味を持ち、おかしいと思うところや、お客さまのためにこうするべきだと思うことを、自分なりにまとめて人事に提出しました。すると、次の年に売り方自体を考える部署へと異動することになりました。

異動先の部署は、販売のプランニング、つまりお客さまに買っていただく際の体験を構築する部署でした。商品の企画開発から販促のためのプロモーション施策まで幅広くカバーしています。異動してすぐは、会社として日本のものづくりのファンを増やしたいという課題感があったので、日本の技術と若者の文化を掛け合わせた新しい提案をし、認知度の向上と商品開発を行いました。

そんな中、前の部署の上司が、ファッションシェアリングサービスをしたいと相談をしてくれました。会社としては新しい取り組みで、大手システム開発会社と組んでサービスの開発を行なうなど、1から組み立てが必要なプロジェクトだったのですが、その責任者を私に任せたいとのことでした。

最初にサービス内容を聞いたときから、お客さまに喜んでもらえているシーンを想像でき、ワクワクしました。また「シェアリング」という世の中の潮流にも乗っており、さらには会社として新しい層を取り込みたいという構想にもフィットしていたので、これは絶対にやるべきだなと感じました。そんな思いから、新規事業の推進責任者に就きました。

元上司と共に、大企業の若手有志団体のプラットフォームであるONE JAPANで出会った同世代のイノベーターと事業の立ち上げに取り組みました。

良いものを循環させ、幸せな人を増やしたい


今はドレスシェアリングサービス「CARITE」の運営責任者を務めています。

特にお客さまがCARITEを利用し、友人の結婚式でドレスを着た日に「周りからすごく褒められました」というお言葉をいただくと自分の仕事にやりがいを感じます。私たちが生み出したサービスによって、誰かの笑顔を一つ増やせることがすごく嬉しいです。

また、CARITEを使ってファッションを気軽にトライできるから、いつもと違う自分になれる「シンデレラ体験ができる」というお客さまの声もいただきます。買うとなると勇気が出ないものでも、レンタルで試して着ることで「私ってこんなに変われるんだ」という体験をしてもらえることは、CARITEの価値だと思っています。

さらに、世の中の環境問題の解決にも貢献できるのではないかと思っています。CARITEでは素材やデザインにこだわった良質な服やアイテムを提供しています。実際に着用してもらうことができれば、それらの良さを知ってもらう機会を、多くの人に提供できるのだと思います。その結果、使い捨てのように服や小物を消費するのではなく、良いものを長く使いたいと思ってくれる人が増えるのではと考えているのです。

今後は、学生時代に取り組んでいた環境問題解決のためにも、表に出ていない良いものの価値に気がつく人を増やし、さらに使用した衣服などを買い取り、再売するような二次流通の流れを作りたいと思っています。最終的には世の中にある「良質なもの」を循環させる仕組みを作りたいです。

とはいえ、いきなり理想の社会を実現させることは難しいので、その過程として、まずは今目の前にいるお客さまや、身近な周りの人たちを笑顔にし、幸せな気持ちを持ってもらえるサービスを提供したいと思っています。その上で徐々に、幸せにできる範囲を増やしていきたいです。

2019.03.28

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