互いの違いを尊重し合い、共存できる社会へ。神の実在を問い続け見つけた、理想の在り方。

【BASE Q提供】ブロックチェーン技術などを活用して、人が自分の価値観に合ったコミュニティを選択して生きられる世界をつくろうとしている河崎さん。クリスチャンの両親のもと、聖書を判断基準として育ちましたが、一神教の教えに違和感を持つようになります。神とは、理想の世界とは何かを考え続け、河崎さんがたどり着いた答えとは。お話を伺いました。

河崎純真

かわさき じゅん|GIFTED AGENT株式会社代表取締役社長
GIFTED AGENT株式会社代表取締役社長。

判断基準が違うと分かり合えない


岡山県備前市で生まれ、大分県で育ちました。両親がエホバの証人を信仰するクリスチャンだったため、幼い頃から聖書の教えを聞いて育ちました。小学校に入る頃には自然と、聖書が自分の判断基準になっていましたね。

小学校に入学して、周りのみんなと価値観が違うことに衝撃を受けました。僕は聖書を元に行動していましたが、他の人にはそれがない。何を判断基準にして行動しているのかわからないから、どうやって付き合えばいいのかわからないんです。

学校にいると、外国人てこんな感じなんだろうなと思いました。でも外国人なら、肌の色とか言葉とか、違いがわかりやすいから周りも配慮してくれるけど、僕は完全に日本人だから当然他のみんなと同じだと思われています。なのに全然違うんですよね。

変わってる奴っていうレッテルを貼られて、いじめの対象になることもありました。人と合わないことにイライラしたし、分かり合えないことが悲しかったです。

そんな感じだったので、学校では限られた人とだけ付き合って、学校の外の繋がりの方を大事にしていました。エホバの証人の繋がりに参加したり、両親の仕事について行って、取引先の人と話したりしていましたね。父は電話帳の配達、母は保険の営業の仕事をしていました。母は以前はイラストレーターとして活躍していたそうですが、発達障害があって家事などでは苦労していました。そんな姿を見て、大変そうだなと思っていました。

神の存在を探して


中学生になると、ますます学校に行くのが嫌になりました。周りと分かり合えないことに加え、日本の学校教育そのものが合わないと感じたんです。聖書が主体性を是とするのに対し、学校教育は協調性を大事にします。なんで周りと合わせなくちゃいけないのかわからず、学校に通う必要性が見出せませんでした。パソコンが好きだったので、独学で勉強してプログラムを書いて遊んでいましたね。

学校教育が嫌いになる一方で、エホバの証人の教えにも違和感を持つようになりました。論理的整合性を考えると、エホバの証人が正しいならエホバの証人の教えだけを聞いていればいいけれど、もし間違っているのであれば、教えを守っている必要はないはずです。人口統計的には神を信じている人の方が多いけれど、信じていない人もいる。論理的にはどちらが正しいんだろうと考えるようになりました。エホバの証人のコミュニティの人たちは好きでしたが、一神教であるために、他の価値観を受け入れられないのも嫌でした。

日本の学校教育も、エホバの証人の考え方も両方嫌だ。そう思って中学校を卒業した15歳のとき、もう学校には通わないと決めて家出しました。エンジニアとして仕事をはじめ、プログラミングでお金を稼ぎました。他にも土木から飲食まで、バイトや派遣はなんでもやりましたね。家出して向かった先は、世界一幸せと言われていたクリスチャンの国、スウェーデン。クリスチャンは本当に世界中にいるのか、神を信じている人たちが幸せなのか知りたかったんです。

エホバの証人の施設は世界中にあったので、スウェーデンの施設を訪ねました。信者の方々や街で出会った店員、会社員や教育者、とにかくいろんな人に話を聞きましたね。実際に行ってみてわかったのは、社会全体が同じ信仰、同じ価値観を持っているから、判断基準が一緒で違和感が少ないということ。だから幸せな人が多いんですね。でも、そんな国にも問題はあるということもわかりました。例えば、自殺が多い、若者が海外へ逃げてしまうなど。神がいるかどうか、信じるべきか否か、論理的にはわかりませんでしたが、一見幸せそうでも、そうでない部分もある、という気づきが原体験として残りました。

それからは、世界の他の場所ではどうなのか知るために、日本と海外を往復する暮らしを送りました。いろいろな場所に行くと、同じ神を信じていても信仰の仕方が違うこともわかりました。例えばアメリカは、どの家にも聖書があるし、日曜には教会に行く習慣がありましたが、信仰の仕方が緩いんですよね。特にルールに縛られることなく暮らしているけど、神様はいると信じているんです。そんな信仰の在り方もあるんだと知りました。海外に行く傍ら、さまざまな学問の勉強をして、神が本当にいるのかどうか証明できる方法を探しました。

神の存在は証明できない


そんな暮らしを2年間続けた17歳のとき、一つの結論を出しました。科学では、神がいることは証明できない。でも、いないということも証明できない。だから一旦、神はいないということにして生きようと。なんて罰当たりなと言われてしまうかもしれませんが、聖書をしっかり読み込んだら「悔い改めれば罪は許される」と書いてあったんです。だから、死ぬ3秒前に心を改めようと決めました。特にきっかけがあったという訳でなく、東京の自宅にいるとき、そうしようと思ったんですよね。

一旦神の実在について考えるのはやめて、やりたいことをやってみようと、エンジニアとしてスタートアップにジョインすることにしました。単純に生きて行くためのお金が必要でしたし、ものづくりも好きだったので、エンジニアとしてやって行くのは面白いなと思ったんです。

最初はTwitterの検索サイトを立ち上げようとしている会社で、プログラムを作っていました。事業売却するタイミングでその会社からは離れ、そこから数社のスタートアップの立ち上げに参加しました。特に起業したいという思いがあった訳ではありませんでしたが、流れで手伝う機会が増えたんですよね。

一方で、19歳のとき東京の大学にも通い始めました。学校は嫌いだったけれど学ぶことは好きだったので、行きたいと思ったんです。文学部哲学科の科学哲学専攻に進み、働きながら学びました。結構熱心に学んだら、科学哲学という分野や思想については、2年くらいで学び終えた感覚になってしまって。知りたいことがわかったし、仕事が忙しいのもあって、休学することにしました。

学費を含め、生きて行くためのお金を稼ぐ必要があったこともあって、そのころはかなりハードに働いていました。創業メンバーとして会社の立ち上げをしたり、役員に就任したり、事業売却を経験したり。ジョインしている会社の仕事と並行して、100個くらいプロジェクトを手伝ったりもしていましたね。

神に代わる神を作りたい


私には、プログラミングを通して作りたいものがありました。それは、自分の中で判断基準となっていた神に代わる、新しい神です。私自身、人間がなぜ存在するのか、なんのために生きているのか証明してくれるような新しい判断基準を求めていましたし、周りの人に明確な判断基準を持って欲しいという思いもありました。判断基準がない人とはうまく付き合えないなと感じていたので、みんな何らかの判断基準を持つようになれば、もっと多くの人と分かり合えるようになるのではないかと考えたんです。

ただ、一神教のようにみんなが同じものを信じている状態は面白くなかった。実際、世界中いろいろなところを周って、みんな違うのは当たり前だと思っていました。お互いの違いは前提で、それをどう許容するかが大事。だとしたらそんな多様な価値観を認めるような、新しい神を作れたらいいと思いました。それによって、多様な価値観が認められて、みんなが自分の判断基準に沿って生きられる社会を創りたいと。

そこでまず、人の判断基準となるような神をプログラミングで作ろうと思って、知識を体系化したシステムやアプリケーションの開発に取り組みました。例えば、その人の人生に必要なタスクを割り出し、スケジュール設計できるサービスとか、憧れの人を入力するとその人になるためには何をしたらいいか教えてくれるサービスとか。ただ、生きていくためのお金を稼ぐことが最優先だったので、そういった個人のやりたいことは後回しでした。

4個目くらいに作った会社を閉めたとき、スタートアップはもういいやと思いました。スタートアップはアプローチ方法がだいたい一緒なので、急成長してすぐに終わってしまう事業が多いんです。それでできるものはたかが知れているなと思ったし、50年後、100年後に残るような事業を作ろうと考えました。

そこで、一度立ち止まって、自分の幼少期の体験を振り返り、日本の社会全体を見渡してみました。そうすると、社会にはいろんな課題があって、うまく回っていないことがよくわかったんです。社会のシステムが古く、判断基準となる軸がないためにこんな状態になっているのだと思いました。自分が理想とする社会像を達成するためには、社会課題を解決して行く必要がありました。

特に、発達障害を持っていた母と同じような症状の人が、自覚せずに苦労しているのを見て問題意識を感じました。こういう人が能力を発揮できたら、もっと社会はよくなるなと思い、まず発達障害の大人にプログラミングデザインを教えるスクールを始めることにしました。

自分がプログラミングが得意なこともありましたし、発達障害の人の特性にプログラミングは合うなと思ったんです。例えば自閉症の人の中には、人とコミュニケーションを取るのは苦手で、集中力が高くて熱中しやすい人が多い。この特性はプログラミングとよく合います。そこで、「偏りを活かせる社会を創る。」をコンセプトに、会社を立ち上げました。

多様な価値観の共同体で、争わずに生きる世界を


現在は、GIFTED AGENT株式会社の代表取締役社長として、継続してプログラミング教育を行なっています。これに加えて、神に代わる神をつくるために、技術の受託開発や自社開発も行なっています。

開発に関して、特に力を入れているのが、ブロックチェーン技術を使ったシステムの開発です。25歳ごろ、ブロックチェーンに詳しい人に会って話を聞き、「これは神をつくれる技術だ」と衝撃を受けました。神とは何かと考えると、突き詰めると合意形成だと思うんです。神は、みんながいると思っているから、信じているから存在している。そういう意味ではお金も神に近いですが、国家や教会の権威によって信用を保っていたので「お金」それ自体に信用があるわけではありませんでした。でもブロックチェーンは、特定の権力によって信用を付与されるものではなく、みんなが分散して管理することで信用を生み出しているんです。だから、言い換えれば誰でも信用を生み出すことができる。つまり「みんなが信じるもの」である神を作り出すことができる技術なんです。

この技術を基盤として、新しい社会システムを構築すればいいと考え、ブロックチェーンを活用した電子政府システムを開発しました。独自の通貨と信用基盤を発行するシステムで、この信用基盤を元にダッシュボードで税や条例、住民の管理をしたり、共同体が個人のIDを発行したりできます。これまでの管理システムとは違い、リアルタイムでビッグデータを分析できるのが特徴です。

例えば、ある自治体が主催するお祭りの売上や来場者数をカウントするとしたら、これまではそれぞれの計算ができるまで待たなければいけなかった。しかしこのシステムなら、IDを使って何人来たか、いくらお金を使ったかがリアルタイムでわかります。システムがデータ分析した情報が、すぐにデジタル上に上がるからです。こういったことがわかると、マーケティング戦略を行政単位で行えるようになります。今、石川県の加賀市で実証実験の準備が始まっていて、台湾のある都市やギニア政府からも関心を持っていただいています。

今後は、このシステムを使って誰でも信用基盤を持った共同体をつくることができるようにしたいと思っています。そのために、まず自分自身が作ってみようかと。本当はチェ・ゲバラみたいな人が現れて先陣を切ってくれることを期待していたのですが、誰も現れないから、共同代表として立ち上げたCommons Inc.で、日本の離島で新しい共同体を作ってみようというプロジェクトを進めているところです。

新しく作られる共同体は、それ自体に信用があるのでどこかの国の決まりに則る必要がありません。小さい国家のイメージです。どんな共同体にしようかはまだ決めていませんが、理性より感性を重視する共同体にしていきたいと考えています。

理性を優先すると、必ず争いが生まれます。ぶつかっている者同士が、論理的には両方とも正しいこともあるからです。みんな、信じている神が、判断基準が違うから、正しいと思っていることが異なることがあるのは当然。だから理性を優先すると、争わざるを得なくなるんです。

でも感性を優先すれば、お互いが「良い感じ」になることを目指して議論していくので、みんなが「良い感じ」になることがゴールになる。「正しいか正しくないか」ではなく、「良い感じ、悪い感じ」で判断する、争いの起きない社会モデルを目指しています。

最終的には、国や銀行などがなくなって、地球をシェアする多様な価値観の共同体がたくさんできるようになると思っています。人は国境や民族に縛られることなく、自分の価値観に合ういくつかの共同体に所属して、自治していくようになる。

多様な価値観を受け入れられない一神教によって作られた既存の社会システムでは、必ず争いが生まれます。多様性を尊重しあえる社会システムの方が、私はいいと思っています。今ある選択肢で選ぶんじゃなくて、もっと無数の社会システム、社会価値観、哲学が存在する共同体をそれぞれが作れて、そこに生きることができる。そんな社会モデルを、世界中で構築していきたいです。

2018.12.03

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