「人を育てるということ」 サッカークラブのコーチとして僕が目指すこと。

横浜市戸塚を拠点とする少年サッカークラブのコーチとして活動している瀧澤さん。サッカーに関わる仕事がしたいと、専門学校でトレーナーの勉強をしていながら、現在は少年サッカーのコーチとして活動している背景にはどのような想いがあったのでしょうか?

瀧澤 萌人

たきざわ もえと|少年サッカーコーチ
横浜戸塚を拠点とする少年サッカークラブでフィジカルも指導できるサッカーコーチを務める。
また、2014年より女子スクールも新設し、生徒を募集している。

横浜ジュニオールSC

サッカーまみれの環境で育つ


私は埼玉県という、サッカーがとても盛んな地域で育ちました。小学1年生の時に地元のチームに誘われたことがキッカケでサッカーにのめり込んでいきました。最初は遊びの延長線くらいの気持ちだったのですが、2年生から6年生までのコーチがすごく厳しい人だったので、その人の下でサッカーをやってるうちに段々と本気になっていきましたね。

家族もみんなサッカーが好きで、父は「今からトヨタカップの試合見に行くぞ!」と突然学校に現れたなんてこともありました。(笑)また、埼玉県民だったこともあり浦和レッズが好きで、「将来はレッズみたいに沢山の観客の前でプレーしたい!」と思っていました。

中学校に上がってからは、学校のサッカー部と地域のクラブチームの両方に所属しました。小学校に比べて、教えられるサッカーをする時間が増えた一方で、サッカー漬けの生活になったことで肉体的にはとてもきつくなりましたね。また、体の成長による感覚の変化で思い通りのプレーができず、試合に出ても楽しくないと感じることがありました。

そんな時、学校のサッカー部の顧問の先生が「最近、クラブチームの方はどう?」と声をかけてくれたことがありました。

何気ない一言だったんですが、クラブチームであまり試合に出れていなかった自分の状況を知っていたこともあり、暗に「学校の部活に専念するのはどう?」と提案してくれてたんですよね。

クラブチームに参加していると、中学校の公式戦には出れないので、部活に集中するため、クラブチームを辞めることも少し考えましたが、うまくいっていない現状から逃げ出すのが嫌だったので、辞めずにどちらも続けることにしました。

嫌になりながらも、やっぱりサッカーは好きだったんですよ。

サッカーに関わり続けたいという想い


高校は、「公立でサッカーが強い学校」と考えていたので、地元埼玉の総合高校へ進学し、当然サッカー部に所属しました。

サッカー部は強豪で人数が多いこともあり、2年生からAチームとBチームに別れ、Bチームは3年生の夏前に引退し、最後の高校選手権までサッカーを続けられるのはAチームだけという仕組みでした。

僕はBチームからスタートしたのですが、少しでも長く、高校選手権までサッカーができるように、Aチームを目指して人よりも沢山練習しました。誰よりも練習をしているつもりだったのですが、結局Aチームに上がることはできずに、Bチームのまま6月で引退を迎えてしまいました。

元々体が小さかったこともあり、引退まで身長が伸び続けていたので、体が出来上がった状態でもっとサッカーをしたかったので、悔しかったですね。プロの選手になれなくとも、とにかくサッカーから離れたくないと思っていたので、部活をやっている頃から、サッカーに関われる仕事を見据え進路を考えていました。

ある時、サッカーと関わる仕事とは何か考えていると、自分自身が中学・高校と怪我がちだったこと、また、怪我をしてサッカーが思うようにできない友人の悩みを聞いていたことを思い出しました。自分自身もそうでしたが、怪我をした本人が一番サッカーがやりたいし、悩んでいるですが、サッカー部には「怪我なんて甘えだ」という雰囲気が漂ってしまうんですよね。

そんな体験から、「健康でサッカーができる人に、怪我で思うようにできない人の気持ちを伝えることで誰かの役に立てるのではないか?」と考えるようになり、将来はトレーナーになりたいと思うようになりました。

とはいえ、勉強は全然できなかったので、推薦で枠が埋まってしまうスポーツ系の大学への進学は無理だと思っていました。そんな中、色々な学校を調べているうちに新潟にある「サッカーの専門学校」を見つけ、友人と見学に行ったときに進学を決めました。

プロフェッショナルの仕事


専門学校では、トレーナーになるための勉強をする「トレーナー専攻科」という3年制のコースへ進みました。

入学後は、まず体のことを知るために生理学、骨や筋肉の性質などを座学で学びました。勉強は苦手だったのですが、自分の好きなことにはエネルギーを注げるタイプだったので、成績は良い方でしたね。

元々、トレーナーになるからにはプロのチームで活動したいと思っていましたが、僕が3年生の時に新潟で国体が開催され、学校のサッカーチームが新潟代表として出場する時に、成績も考慮され、運良くトレーナーとしてチームに同行することができました。

そのチームは選手の中に元Jリーガーが7人いたり、地元のアルビレックス新潟と提携したりしていたので、選手もスタッフも一流の人達で構成されていました。

中には、なでしこJAPANでコーチをしている人もいたのですが、その人は、朝一の散歩時に選手にアドバイスをするために、1日4試合というハードスケジュールをこなした後でも、帰ってすぐ翌日の対戦相手のチームの分析を始めて、それを夜中の3時まで続けていたりするんです。

プロの仕事を目の当たりに感じた瞬間でしたね。そして、対戦相手の中には今ではJリーグに所属するチームもいる中、チームも国体で優勝することができたんです。勝つことがすべてというプロフェッショナルの世界を肌で感じ、この世界で自分も働きたいと思いました。

指導者という選択肢


しかし、トレーナーの仕事を探すのは、思ったよりもかなり大変なことでした。最初からプロチームに入れる人はほとんどいないため、まずはボランティアや小さなチームでキャリアをスタートする人がほとんどでした。

自分としては、お金を頂かないボランティアだと「どうせボランティアだし」という甘えが出てしまうと考えており、仕事として成果を出し、お金を頂く環境の方が良いのでは思っていたので、無給での仕事に就こうとはしませんでした。また、国体の経験があったので、プロに比べて目的を設定し辛いアマチュアチームで働くことには、少し違和感を覚えるようになってしまったんです。

そんな感じだったので、就職活動をするものの、なかなか働く場所は決まりませんでしたね。サッカー以外の競技でトレーナーとして活動する道もあったのですが、「サッカーから離れる」ということは考えられませんでした。

コーチや監督などの指導者としてやっていくことも勧められたのですが、自分自身が選手として高いレベルでやってこれなかったこともあり、あまりイメージが持てませんでした。

そんな中、学校に少年サッカーチームでのコーチのオファーがあり、代表の方とお会いすることになったんです。その代表は女性で、夫である前代表が亡くなられて1年ほど経っており、運営しているクラブが存続の危機という状態でした。

そんな背景もあってか、その女性代表は話しているときとても熱く、とにかく目が本気だったのを今でも覚えています。

そのクラブは、Jリーグチームの下部組織に入れなかった、エリートではない、挫折を味わっている子供たちを集め、その子たちを高校年代やその先など、将来的に活躍できる選手に育てることを目指しているとのことでした。

その話を最後まで聞いたときにはその熱量に惹かれて「このチームで一緒に活動したい!」と意気投合して、卒業後からコーチとしてお世話になることになりました。

「与えない環境」を与えるということ


現在は卒業前にお会いした女性代表が運営する、横浜市戸塚にある「横浜ジュニオールSC」というクラブで、中学1年生にサッカーを教えています。

実際にコーチとして子どもたちにサッカーを教えながら接していると、あることに気が付いたんです。それは、今の子供たちは常に正解を与えられていて、失敗できない環境で過ごしているということです。

すごく便利な世の中で暮らしている一方で、その環境は人を退化させてしまいますし、サッカーは自分で考えて行動することができないといいプレーが生まれないスポーツです。

だからこそ、小さい頃から自分で考える力をつけてもらえるようにあえて「与えない環境を与える」ということを意識するようになり、今では「サッカーを教える」ことから「サッカーを通じて人を育てる」ということに夢中になっています。

あまり正解を与え続けないということは、例えばサッカーでは勝てないことも多く、なかなかすぐに結果は出ませんが、子どもたちには自分で考えることで、本当に成長できる力を身につけてもらいたいと思っています。

いずれは、自分の育てた選手の中からサッカーの最高峰の舞台であるチャンピオンズリーグとワールドカップに立つ選手を輩出したいですね。

また、自分自身の目標としては今の仕事を追及して、しっかりと業界で認められるような存在になり、人に影響を与えられるようなかっこいい生き方をしていきたいです。

2014.06.17

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